まず感じたことは、この著者は、格差社会についてなんとかしたいと思うのであれば、厚生労働省の労働省系キャリア官僚だったのだから、もう一寸現実や現場を知って、役所で汗水たらして頑張って見るべきではなかったのか。大和郡山市役所、厚労省、兵庫県立大学と公務員をサーフィンして得るものが無くなったらさっさと見切って、市民にも、労働者にも、学生にもあまり愛着がないのではないか。また、他人が作ったデータでの分析・意見は評論家的で、役所の審議会の答申以上に他人事風。
<br />内容の要点は以下の通り。
<br />○日本の格差拡大はジニ係数に現れているが、これは高齢者間の格差拡大によるところが多いとの意見もある。
<br />○市場経済主義が勢いを増し格差が広がったのは小泉政権によるものではなく、社会の変化、経済のグローバル化、自民党政権の継続という条件下ではなるべくしてなったもの。
<br />○所得、相続、株式譲渡からの益に対し累進課税率を強め、この収入は弱者が自立するための手助けに使う。このことによって、階層の固定化を避ける。
<br />○生活保護などの給付を甘くするのではなく自立するための支援を強化する。即ち魚を与えるのではなく、魚の取り方を教える。
<br />○そのためには、職業訓練の期間を半年でなく2年以上にして就業できる技術を身につける。
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<br />でも、階層の固定化を防いでも、子供にはチャンスが与えられるかもしれないが、その親にはあまり多くのチャンスが与えられるわけでないし、職業訓練も、ある程度以上の年齢になると覚えるのに時間がかかるし覚えたものを思い出し活用するのも上手くないし・・・ここらが格差の縮小が難しいところ。
官僚出身の著者らしく、官庁から出されているデータをフルに活用して論を展開していく辺りは、流石だと思います。しかも、データも皮相的なものではなく、もう一歩突っ込んだものを出してきているので、「なるほど」と思わされることも多かったです。
<br /> 小泉政権に対しては100%賛成派と100%否定派に分かれることが多い中、巷でよく見られるような過度の肩入れや過度の批判がなく、非常に読みやすかったです。また、最近「格差、格差」と叫んで中身のない識者が多い中、具体的な処方箋を示した著書だと思います。
<br /> もう一つ気に入った点は、富裕層・中間層・貧困層・企業のそれぞれに応分の負担を求めていること。この手の本は、必ず上記のいずれかを擁護し、いずれかを攻撃する、と言った過激なものが多く、その主張が過激であればあるほど、実現性に疑問符がついてしまうものですが、上記のいずれをも擁護・攻撃せずに論を展開しており、その提言にかなりの信憑性を与えていると感じました。
「富裕層の傲慢・貧困層の怠慢」という副題が付いているが、格差の問題については、富裕層と貧困層とそれぞれの層の意識に問題があるというスタンス。前半は、5年間の小泉政権の政策が格差問題にどのように影響を与えているのかについて客観的に分析をしており、結論として、格差の拡大は小泉政治の影響だけではなく、企業行動や教育、行政などの寄与度も大きいとしており、暗に、格差問題の解決については政治任せにせず、社会の各主体がそれぞれきちんと意識を持って対応していかなければならないとしている。筆者は、資本主義体制を続ける以上は「自由」と「平等」は根源的には両立しないとしており、それはそのとおりだと思う。要はそれらをどのように取り繕うか、つまり1億3千万人の国民を満足させるというよりは不満の声をいかに最小化するかという問題なのだが、筆者の主張する市場の原則と社会の原則をきちんと切り分けるべしというのは1つのよいヒントである。経済活動はこれからも市場原則に従うが、自由、競争、選択、成長といった市場原則の概念は社会生活に通用しない不自由な側面があるので、市場原則と社会原則の調和をうまく図っていく必要がある。筆者は、その前提として、個々人の自立と信頼関係の構築が必要だとしており、この主張も首肯するが、1億総無責任で社会について真剣に考える人もあまりいない世の中、なかなか難しい課題である。いったいどこから手を付けるべき話なのだろうか。やはり教育なのだろうか。