医療崩壊に関する本が沢山書店に並んでいるが、どの本も専門用語を使い過ぎている傾向があり、一般人は1ページ目を開いただけで拒否反応が出てしまう。そんな本が多い中で本書は読者の為にカタカナ言葉や難しい語句には親切な注釈を付けてあるので理解しやすい。今の医療の現実を説明するだけではなく、良くする為の改正案までも提示してある本は珍しい。そして著者が過酷な医療現場で働く現役の臨床医なので、日本の医療を良くする為には戦い抜くとの著者の強い決意が行間からも伝わって来る本である。
私たちは日本の医療に対して誰もが大きな不満を持っている。そして不満を言い合っているが、本書を読めば、その不満の病巣がはっきり見えてくる。まったく筆者の指摘する通りである。政府の医療政策は欺瞞に満ち、国民をうまく騙している。マスコミは勉強不足で、国民を愚衆化している。筆者の視点では、多分、アメが降ろうが、ヤリが降ろうが、ポテドンが降ろうが、国民の生命を考えない政府は国民に対して宣戦布告をしているのと同様と言いたいのであろう。まったく同感である。
日本が「人口減少社会」を向かえ、世界でも類のない高齢社会へと入っていくことは確実だ。少子化、高齢化、未婚率上昇などの報道、そして妊婦が救急車で搬送され、病院をたらいまわしにされた挙句に死亡、という痛ましい報道も。いま、日本の医療の何が問題なのか? 医療現場で何が起きているのか?
<br /> そうした疑問に答えたのが本書である。著者は現場の医師であり、医療問題、医療現場をつぶさに語る。医療はサービス業なのか? なぜ医師、看護師が少ないのか? 医療費が高いのか、安いのか? 医療財政はどうなっているのか? 等々。
<br /> 著者は、「医療は私たちの生命、存在そのものを守る」安全保障であり、医療はサービス業ではありえない。医療は社会が共有する財産である、という。したがって、いま行われようとしている市場主義に基づく医療改革などは、本来の医療とは相容れないもので、国民皆保険制度の堅持が私たちの生命を守り、医療を守るのだ、と主張する。
<br /> 本書は、医療がすべての国民のものであり、医療の現実を多くの人たちに知ってほしいと訴える。安全・安心の社会をめざすためにも、医療問題の現実を知る意味は大きい。医療問題を知る好著である。
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