技術の質的変化による市場の激変を体験した事のある人にとっては、本書の内容は経験的に「当たり前すぎ」て議論以前のトピックであるし、本書ではその当たり前すぎる事を特に実証的に証明したわけでもない。別の人も書いているが、書名のインパクトにヤラれた人も多いのでは。
弟)今月の稽古はこれですか?
<br />師)そうだ。この本はノートを取りながら読むこと。
<br /> 丁寧な調査に基づく科学的な本だ。内容は濃い。
<br /> 文章には風格を感じる。著者の志の高さを感じるな。
<br /> いい本なのでじっくり考えながら読んでほしい。
<br />弟)で、内容の方はどんな…
<br />師)テクノロジーとイノベーションの本質に関わる話だ。
<br /> 結論は驚くべきもので、どれだけ強力に市場を支配している大企業であっても、自身の大きさゆえに、また効率性を追求するがゆえに、新しい市場を逃してしまうという話だ。
<br /> つまりベンチャーや中小企業にとっては魅力的なサイズだが、大企業にとっては何の魅力もない、成長するニッチ市場がどこかにあるぞ、ということになるな。
<br /> ベンチャーや中小企業の側に勇気を与えてくれる本である。
<br />弟)そうすると大企業にとっては救いがない本ですね。
<br />師)そう思ったら同じ著者の「イノベーションの解」も併読すること。
<br /> ところで「イノベーションのジレンマ」は、それがイノベーションたりうるかについて、単純明快な判断基準を与えておる。これは実用的なツールだな。世の中はそんなに単純ではないと批判することは簡単だが、そういう態度から経営の質の改善は生まれない。まずはクリステンセンのロジックをしっかり追うことだな。
<br />弟)はい。では稽古して参ります。
イノベーションが企業を自滅させる‥という説明は意外性があって面白い。しかし、この本にはその意外性以外に、いったい何が書かれているのだろうか?
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<br />例えば、学者がよくおこなう「市場原理」対「計画経済原理」のような、二つのある意味で対立する概念の論争は、実際にビジネスを展開する立場では意味がない。実際の現場では、対顧客関係では市場原理を、対法制度対策としては計画経済的な発想が、その時と場合に応じて必要となる。
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<br />もしも仮にこの本が、「企業をダメにするイノベーションとはこういうものですよ」、反対に「企業をよくするイノベーションとはこういうものですよ」と、イノベーションの良悪を判別するための指標を提示しているのなら、学習意義があり、再読に値するだろう。しかし、この本は「企業をダメにしたイノベーション」の羅列と後付の説明のみである。
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<br />読後に自身に問うてもらいたい、この本から学んだことは一体なんだったのか?と。