初版は1987年だから、もう20年にもわたって読み継がれているソフトウェア開発者の「古典」である。著者のトム・デマルコは、80年代後半から90年代にかけて活躍したシステムコンサルタント。構造化技法のひとつである「デマルコ法」の考案者としても著名である。
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<br />ドッグイヤーとかマウスイヤーと呼ばれるほど進歩の早いこの業界にあって、本書がこれだけ長い間読者を魅了し続けるのは、まさに書名のとおり、ハードウェアでもなく、ソフトウェアでもなく、それを作る「人」に焦点をあてた論考だからであろう。
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<br />最近でこそ、コーチング理論やメンタルヘルスなど、ヒューマンリソースのケアが重要視されているが、当時、開発者のやる気や、生産性の高い作業環境、チームビルディングの重要性を正面から論じた本はこれ以外にはなかったと思う。
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<br />現場のソフトウェア開発者の視点に立って、管理者や会社側の不条理を追及するというスタンスなので、当時プログラマだった筆者は「わが意を得たり」と密かに喝采を送ったものだった。チームで回し読みしては「パーキンソンの法則」「スパゲッティディナー効果」「チーム殺し7つの秘訣」「黒服チームの伝説」などなど、議論白熱して終電を逃したことも懐かしい。
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<br />当時の仲間はいまや皆管理職になり、本書からは攻撃を受ける立場になった。今、第二版を読み返してみると必ずしも肯ける話ばかりではないが、それは単に立場が変わったというだけではなくて、きっと初心を忘れてしまっているからなのだろう。
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<br />というわけで、筆者にとって本書は、この業界に身を投じた当時の初心に立ち返るための大切な本であるが、もちろん若い方にも勧めたい。頭のかたい上司、理不尽な上司の下で働いている方なら、きっと溜飲が下がること請け合いである。
今でこそモティベーションマネジメントという言葉が<br>聞かれるようになってきましたが、まさにこの本は<br>モティベーションマネジメントを堂々と唱えたパイオニアです。
人は単純な道具ではない。機械は燃料と時間があれば、作業量は増えるかもしれないが、人間はシリをたたくだけでは良い結果を出さない。機械にも優劣があって、高くてもいい機械を導入する価値を認めているのに、いい人に来てもらう努力を惜しんで失敗するプロジェクトがなくならない。いい人は平均的な人の2万倍の生産性があるらしい。ソフトウエア開発は、いいひとをあつめて、その人達のやる気をそがないように環境を整えることが管理者のつとめ。そのことを何度も認識させてくれる本。デマルコさんの経験則だから、間違いない。