世に「オッカムの剃刀」という言葉がある。これは、ある現象を説明する理論なり仮説なりが複数あった場合、よりシンプルである方がより確からしい、という経験則を述べたものである。従って、シンプルであることが必ず正しいということを保証するものではないが、本書で取り上げられた10の科学実験は何れもシンプルであり、それでいて正しく、かつ本質を突いているものばかりである。このような自然の摂理という真実を圧倒的な力で見せつけられると、人間はただその前で見とれて立ち尽くすか、ひれ伏すしかなすすべはない。勿論、このような感情を持つに至るには、その背景にある物理科学の知識が必要とされるが、ここで要求されている知識は、恐らく高校物理程度で十分であろう。
<br /> 本書のカバー絵がなんとなく漫画っぽいので、内容もそれなりかと思ったが、その期待は(嬉しくも)裏切られた。これは科学書であると同時に哲学書でもある。本文の最後にある、「・・・、もしも自然が知るに値しなかったなら、命は生きるに値しなかったろう。」というアンリ・ポアンカレの言葉が、本書の内容の全てを表している。
<br /> 翻訳も非常にこなれていて読みやすい。
ここに登場するあらゆる人物はわたくしたちとおなじ
<br />少年時代をすごし、ちょっとへんかなーなんて思われている
<br />そんなこどもだった天才異才をうまく育てていったこの興味
<br />という実験はときに怪我をしたりそれを諦める人もでてくるわけだが
<br />そんなことをいとわずにつづけていたそれが、すばらしい
<br />科学実験へとむすびついていった。
<br /> 科学を知らなくてもページをめくると、そこには
<br />いままで知らなかった宝物のありかをおしえてくれるようで
<br />痛快な一冊である。ぜひお薦めしたい。
昨今、日本における科学教育レベルの低下が言われて久しい。
<br /> 工学部の人気低下も著しく、国立大学の工学部系でさえ、いまや比較的入りやすいと言われる程度になっている。
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<br /> 確かに、自分の教わった何十年か前の学校の化学や物理の授業もあまりおもしろいものでなかった。
<br /> ところが、この本に提示された「美しい」科学実験は、本当にわくわくさせるものばかりである。
<br /> いまや、常識と言われる科学の体系もこのような努力の結果得られたものであるとは、恥ずかしながらほとんどと言っていいほど知らなかった。
<br /> かくいう私も文系であるが、この本にあるような科学実験を追体験すれば、科学に対する思い入れも、今とは相当に違ったものになったのではないかと思わせる。
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<br /> 学校で教わった、いわゆる「知識」は、このような先人たちの血と汗と涙の努力の結果であるし、授業で生徒たちに追体験をさせることができれば(そのようなレベルを遙かに超えた職人技が多いことも記載されてはいるが)、今よりももっと多くの科学技術者たちが生まれてくるのではないかと思わせるような本である。
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