ジャーナリストが著名人からの聞き取りで本を書くというのは<br>私個人的には好きではありません。著名人を必要以上に持ち上<br>げたり、神格化されるとうんざりしますよね。<p>この本に関しては、そういった部分があまり気にならずになる<br>ほどなるほどと頷きながら読みました。本の構成や問題点の切<br>り口が鋭く、引き込まれました。
セブン-イレブンは日本初のコンビニエンスストアであり、店舗数も、来店者一人当たりの売上額(客単価)も業界トップを走り続ける優良企業です。私自身はコンビニ業界と何の関係もないのですが、「本当のようなウソを見抜く」というタイトルに惹かれて手に取りました。なにせ「仕事のウソ75」を解剖してくれるのですから。<p> はじめに出てくるのは「顧客のため」というウソです。「顧客のため」と言う人ほど、実は自分の立場を正当化するために「顧客」を持ち出す傾向がある、という鈴木氏は、社内で「顧客のため」という言葉を禁止し、「顧客の側に立って考える」ように指示しているそうです。<br> また、アルバイト店員にも発注業務を担当させ、明日はどんなお客様が来店するかというシミュレーションに基づいた仮説作り、仮説が正しかったかどうかの検証を繰り返している。その中で培われていくものが各店舗の財産だ、という話を初めて聞きました。<p> NHKのプロジェクトXでセブン-イレブン第1号店をオープンした前後の苦労話を紹介したことがありました。(もう5年も前の放送なんですね)<br> この番組は、無名の主人公たちの活躍でプロジェクトが成功する、というストーリーに則っていますから、鈴木氏も「群像の一人」として扱われていました。<br> 本書を読むと、やはりこの人は普通の人じゃないな、と感じましたが、鈴木氏は「オレが頭脳だ。みんなは何も考えずに付いて来い」というタイプではありません。著者の勝見氏が指摘しているように、セブン-イレブンの経営は現場の第一線で「知」(計画や評価などの思考部分)と「行」(実行部分)を一体化させる経営です。<br> 自らの経営センスに絶対の自信を持ちながらも、組織の末端まで自分で考えて行動することを求める。<br> これは、もう、毎日がプロジェクトXの繰り返しですね。
私見ではあるが、今まで20年以上企画業務に携わってきてた個人的経験からも、マーケティングやものづくりの観点で唯一100%近く共感できる考え方を持つ人物はこの鈴木敏文氏以外にはいない。<p>論理的に見えるが机上の空論ばかりで、実際には全く役に立たない昨今のビジネス書の中にあって、鈴木氏の実践と実績に基づいた本音の考え方がひと際輝いて見えるのは私だけだろうか。<p>「新しい課題を解決しようとするとき、最大の阻害要因は過去の成功体験である」、「前例のない新しいことを始めるときには人の話を聞いても仕方がない」、「セブンイレブンには中長期的な計画は存在しない」など、この本はたくさんの魅力的な文章で埋め尽くされている。<p>1年先も予測できない激動の世の中にあって、私の知っている二流メーカーは相変わらず10年先のビジョンから施策をブレイクダウンするという、ほとんど使い物にならないアメリカの理論を未だに活用している。アメリカかぶれもいいところだ。本家アメリカのセブンイレブンを立て直した鈴木氏の爪の垢でも煎じて飲めば考え方が変わるかもしれないが。<p>鈴木敏文氏のような考えを持つ経営者がいることを同じ日本人として本当に誇りに思う。