ラカン入門書であり、精神分析的な人間理解の入門書である。入門書だからといって、無論あなどってはいけない。まず入門書であれば必ずクリアーしなければならない「かみくだく」という作業を、ちょっと粗野な感じがするけれどやさしいお兄さん、的な語りの文体を通して完璧にこなし(時に読者の顔色をうかがうような態度をみせるのが、謙遜さへの好感とへりくだりへのイライラの両方をもたらすのは微妙だが)、あの複雑怪奇で難解きわまりないラカンの思考をおそろしく簡潔かつ明確に提示している。「おそろしい」という畏怖の念の吐露は、本書のラカン本としての画期的なまでのわかりやすさを前にしては決しておおげさな形容ではない。明らかに前人未到の仕事である。もちろんその「わかりやすさ」がディープなラカン読者をいらだたせるのであろうと推測されるのだが、とりあえず「中学生」あたりを想定しているらしい本書の趣旨を理解するべきだろう。
<br />そして、人間がわかる。この点について評価をする際には、それが「ラカン」に独自の見解であるか「斉藤環」によるラカン曲解の上での意見であるかはどうでもよい。とりあえす自分の意志とは別のところから生かされやがて死に、言葉をあやつり言葉にしがみつき言葉に絶望し、ときどき異性を愛したり憎んだり親を愛したり憎んだり、男でも女でもそれぞれの面倒くささを抱えながらまれに狂気に陥る私達の本性の一部を理解するのに、本書は必ず役に立つ。
<br />思想的な著作では本年度ベスト、と個人的にはいいたい所だが、そういう私的な絶賛はともかく、中学生から業界人まで一読してみる価値は十分にある本だと確信しています。
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ラカンを理解したくて色々な入門書を読みましたが、それら殆どを途中で挫折した結果この本に辿り着き、ついに最後まで通読することができた1冊です。
<br />ラカンに興味があるが原作を直接読める程の知識がない→だからその入門書から読もうと思ったが、その入門書に書いてあることもよくわからない→とにかくまずはラカンの思想のイメージだけでも自分の中に形作りたい。
<br />そんな人にお勧めです。これを読んでから普通の入門書を読めば更に理解しやすいことでしょう。
これは斎藤氏の本全般的に言える事ですが、ラカン云々と言う事ではほとんど見るべきものは本書にも存在しません。
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<br />本書ではラカンという名前をはっきりとタイトルに持ってきてはいますが、初心者であれもう少しラカンについての
<br />知識がある人達にとっても、大変退屈な本と言えます。
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<br />何故ならば、ラカンの面白さと言うものはここで書かれているごく基本的な事の先にあるものだからです。
<br />ラカンのセミネールを読んでいる位の人であれば、本書を買う必要は全くありません。
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<br />斎藤氏はそろそろラカンという名前だけを標榜した内容の薄い著作を量産する行為を卒業する必要が
<br />あるとは言えないでしょうか?
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<br />斎藤環ファンの方にはいささか不愉快なレビューになってしまいましたが、彼の世代がもっと気合を入れて
<br />ラカンと対峙しない限り精神分析は過去の遺物になる恐れがあるのも事実です。
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<br />ぜひとも頑張って欲しいものです、勝手ながら…。