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ブライアン・デ・パルマ―World is yours ( 三留 まゆみ )

日本初のブライアン・デ・パルマの研究書だということです。読後感を端的に言えば、複数のライターが特に統一された視点のないままに勝手気ままに原稿を書いているという感じでした。研究書と名乗るにしては全体の構成が食い足りないのです。おそらく監修者の三留まゆみさんが執筆陣のライター諸氏をうまくコントロールできなかったのかもしれません。残念ながらブライアン・デ・パルマの人物そのものあるいは作品全体に渡る体系的な理解はできませんでした。 <br /> <br />デ・パルマに関する論評書にはローラン・ブーズロウ著、今野雄二訳の「デ・パーマ・カット」(1989年、キネマ旬報社)があります。今回、日本で初めての本格的なデ・パルマ研究書が出版されると聞いて期待していました。15年以上前に刊行された「デ・パーマ・カット」以上のものを期待していたのですが、ブーズロウが試みていたようなインタビューと繊細な映像分析による記述は少なく、ライター諸氏が十分に作品を考察することなしに自分の想いを書き連ねているような文章が大部分を占めており、大変惜しく思います。正直なところ、真にデ・パルマ作品の研究をするのであれば「デ・パーマ・カット」を入手した方がよいでしょう。心の底からブーズロウ氏に「デ・パーマ・カット」をアップデートしてもらいたいと思いました。 <br /> <br />ただ、本書からは監修者の三留まゆみさんの気持ちが伝わってくるようで、その点で、大きな拍手を贈りたいと思います。個人的に思い入れが強い監督についての著作ゆえに辛口のレビューになってしまったことをご容赦ください。

『師匠、ブライアン・デ・パルマに捧げる。私たちはあなたの熱烈な支持者であることを永遠に誇りに思う。』<br />とにかく、ブライアン・デ・パルマといえば三留まゆみ、三留まゆみといえばブライアン・デ・パルマなのである。映画秘宝の前身である映画宝島で町山智浩や柳下毅一郎やデルモンテ平山らを初めて知り、そして知ったのが独特のデフォルメイラストで映画評を描く三留まゆみだった。<br />この人のイラスト及び文章をずっと読み続けていると嫌でも分かるのが、ブライアン・デ・パルマが大好きであること、とりわけ彼の「ファントム・オブ・パラダイス」を溺愛しているということだ。彼女が以前出した「三留まゆみの映画缶」においてもその愛はたっぶり語られているが、今回、ついに一冊まるごとブライアン・デ・パルマの本が彼女の編著により纏められた。<br />本書は、ブライアン・デ・パルマの代表作に関する作品研究や、デ・パルマテクニックについての詳細な解説、デビュー作から最新作「ブラック・ダリア」までの全作品紹介、デ・パルマの作風についてのコラム、三留まゆみ・手塚眞・原口智生・柳下毅一郎による座談会などが掲載されている。<br />中でも、三留まゆみによる「ファントム・オブ・パラダイス」作品研究は圧巻。オープニングからエンディングまで解説を交えながらの紙上プレビューなのである。これまで彼女が幾度となく語ってきた「ファントム」愛の集大成とも言えるだろう。<br />そして、座談会での三留まゆみの発言、『「私「ミッション・トゥ・マーズ」の時に「がんばれ!」って書いた(笑)。「師匠、これはないです。今回は守りきれません」(笑)。私、他のものは全身で守るよ。』冗談めかして言っているが、彼女は本当に全身で守るに違いない。この発言が本書の全てを言い表していると言ってもいいだろう。

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