完成品は未見。そのため絵コンテの感想なんですが、かなり本編内容にまで首を突っ込みますので、あしからず。
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<br />まず、こういった絵コンテを見る機会はなかなかないので(ジブリ関係と押井さんのものは見れますが)発行してくださったアニメスタイルさんには感謝致します。
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<br />さて、さすが細田さんと申しますか、1カット1カットのすべてがシーンを見せるのに効率的かつ効果的で、さらに本編のテーマ、文脈の表現まで考えて作られており、分析しながら読むのが大変おもしろいです。
<br />ちょっと例を上げると、S105のC6みたいに、お客さんの気持ちが友梨に入りすぎないよう、消失点をフレーム外に置くなど、基本的ではあるけれど、標識や分かれ道など象徴的な演出をしているにも関わらず、ちゃんとお客さんが見えているのが、読んでいて好感が持てます。
<br />絵もうまく、コンテの読み方がわからない人でも十分楽しめるレベルなのがまた良いですね。
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<br />ただ問題だと思うのは、扱っている時間の概念が古いこと。
<br />シナリオの仕掛けもそうなんだけど、構図の撮り方にまで時間のイメージを乗せているので(例えば横の構図の使い方など)最近の冥王星のニュースみたく、時間の概念が一般的に変わるようなことがあると、途端に作品の寿命がつきてしまう気がします。デジタル時計の描写が、その予防線になっていると捉えることも出来ますが、タイムリープ中の描写が空間の移動を表しているようなので、効果は相殺されてしまい、見方によっては、作品そのものが空中分解する危険があるように思います(もちろん見る側があらかじめ了解していれば問題ないと思いますけど・・・)。
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<br />まあ、なんだかんだ言っても技術的にすばらしいコンテであることは間違いないので、(特にアニメ演出家志望者は)本がボロボロになるまで楽しみ尽くしましょう。
押井守の「パトレイバー2」演出ノートみたいな物を期待してたのですが、本当に素の絵コンテ集でした。でも、これはこれでアリだと思いますし、何よりボリュームが凄い。細田監督の意図的な演出の数々をお腹いっぱい楽しめます。
同名映画の監督である細田氏直筆の400P以上に及ぶ絵コンテをすべて収録。巻末に細田氏が自分の映画製作の哲学を語ったインタビューが数P付いています。
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<br />完成品の映画を期待せずに観に行ったのですが、最初から最後まで主人公の気持ちに感情移入して、一時も目を離さずにスクリーンを見つめ、感動と充実感とともに映画館を出ました。感情描写や落ち着いた演出など、近年の実写映画の演出を越えている部分も数多く見られました。いったいどうすればこのような素晴らしい映像と脚本と演出が融合した作品ができるのだろう?と興味に思って購入したのですが、絵コンテの時点で素晴らしい内容です。凄まじい感情表現の計算と努力の結晶を見ることができます。一シーン、一コマ、一つのしぐさに与えられた重要な意味。そして練りに練られたタイム計算の跡。また、この絵コンテを読み込んで原画を作る作画監督など、この映画製作に携わった各スタッフの理解能力の高さも良くわかります。ほぼこの絵コンテのイメージ通りに各キャラクターの動き方や演出の価値観が統一されているのですから。アニメは一人では出来ない仕事なのだな、ということも伝わってきました。
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<br />映画を作る製作側の恐ろしいまでの熱意の核心を見ることができます。素人の読み応え的にも絵コンテ技術の参考にもとても価値の高い一冊。値段分の価値は十分ありです。