まさに「不可視の王国を眺め、越境し、探索するための手引書」(本書より)。
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<br /> 引用図版も多く読みやすいですが、図版が図版だけに電車では読めません(苦笑)。
<br />町田ひらくのカバーもすばらしい。こじままさきのデザインも最高。なのでとりあえず一人のときに読みましょう(w。
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<br /> 内容も十分過ぎるほど。「「快楽装置」としてのマンガ入門」のサブタイトルに偽りなし!。第1部の「エロマンガ全史」はマンガ読み必読。古株の方にとっては常識なのかもしれないけれど、これからのマンガ史の資料としてもかなり実用的。日本のマンガの底辺の広さを改めて実感できます。
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<br /> そして、第2部の「愛と性のさまざまなカタチ」では、「もはや実用できないほどハードな描写」が何故載ってるんだ(ただし個人差があります)」といった疑問や、「萌え」が一言で説明できない理由が理解できます(できた気になれる、少なくとも腑に落ちます)。
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<br /> また、セクシャリティに関するスタンスが非常に中立的スタンスで非常に好感が持てます。(本論から外れているためか、ゲイのためのエロマンガはほとんど言及されていないが、きっちりカバーしているのもすばらしい)
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<br /> 「マンガ読み」を自称する方には資料として必携です!ぜひ手に入れましょう。
<br /> ※ただし、セクシャリティに関して寛容でない方にはお勧めしません。あしからず。
すばらしい。とにかくすばらしい。本書はエロ漫画評論の第一人者である永山薫による、他に類を見ないエロ漫画評論書であり、今後この分野の研究・評論においてキーストーンになると断言できる偉大すぎる1冊です。
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<br /> 本書は2部構成になっており、第一部は1940〜50年代から現在に至るまでのエロ漫画の歴史を作者・作品とそれをとりまく出版状況、社会情勢を視点にいれて検討する「エロマンガ全史」。第二部では「愛と性のさまざまなカタチ」と題され、エロ漫画における7つのモチーフ(ロリコン漫画・巨乳漫画・妹系と近親相姦・凌辱と調教・愛をめぐる物語・SMと性的マイノリティ・ジェンダーの混乱)をとりあげて、各モチーフにおいて、名作・秀作に言及しながら、「なぜそれが書かれる/読まれるのか?」を分析していきます。
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<br /> フィクションをたたき台にして人間とか社会といったものに言及する文章を読むと、筆者の世界観を正当化するための我田引水ぶりや、逆に実感をともなわない空虚さを感じて違和感を覚えることがしばしばあります。しかし私は本書を読んでもそうした違和感をもちません。それは十分な客観性を保ちながらも、「エロ漫画」というものに対面する自分の骨がらみな部分と向き合い、表明する覚悟が筆者にあるからだと思います。シャープかつクリアであると同時に硬質な叙情をにじませる文章も肌に合います。ひさびさに評論読んでしびれました。私は評論を読む時には「良い評論=面白い評論」というややIQ低めな基準を採用するのですが、本書は本当に面白かったです。