この本は、東亜日報科学欄担当だった著者が、黄禹錫前ソウル大教授のES細胞研究捏造に東亜日報もどうして加担してしまったのか、退職してまで書き上げた本だ。著者の関心は、黄前教授の捏造過程というよりも、捏造を許したマスコミ、科学界あるいは世論のあり方にある。
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<br />一読後の感想としては、こういった世界的な捏造事件が起きた一番の原因は、韓国国民全員が、韓国の文化的優位性を世界的に示したくてウズウズしている点だ。韓国の科学界は、黄前教授の研究を否定的に見ていた。しかし韓国国民は、黄前教授を世界的な科学者に祭り上げ、一部のTV局などの否定的見方を、完全にシャットアウトしてしまった。韓国人は日本人よりも均一な民族だという。韓国人の全員の熱狂は怖い位だ。
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きっと出るだろうと思って待ち望んでいた本。
<br />ES細胞に関する捏造論文・虚偽報告・詐欺研究費受け取りの一部始終が記されている。著者は韓国のジャーナリストで、医学・科学に関する著作があるという。
<br />本の作りがわかりやすい。
<br />最初に「黄禹錫のマスコミ」として、その虚偽を支えた、批判的精神や科学的思考を欠いた報道やそれに関わったマスコミの動きがまとめられる。実力や実績のないものを持ち上げてネタにして熱狂する、根拠のないポジティブフィードバックの滑稽さ。その中で無視されてきた倫理的な問題。
<br />次に「黄禹錫の科学」として、いったん流れができてしまうと、そこに膨大な研究労力を費やし実績と需要を自己生産する科学者の社会。しかもその中では、先頭を走ることに集中し、相互に研究結果を確かめたり健康的な批判的議論を欠いた研究者や専門家グループ。
<br />そして「黄禹錫の国」として、これらに有頂天になって膨大な研究費をつぎ込み、このニセ科学の実施の「原動力」と「お墨付き」を供給し続けた国家とその政策。
<br />日本でのゲノム研究などを巡る捏造事件や、世界中を巻き込んだ常温核融合の熱狂と批判と忘却のプロセスなどを、もう一度見るような気分になる。
<br />何度でも読もう。なぜ止められなかったのか、以前の捏造やニセ科学の事件に比べて何が変わり何がよくなったのか、それを確かめよう。
<br />日頃から、健康的な批判的精神と、科学的な考え方を身につける重要性をもう一度確認しよう。