1巻に比べると、マルジ個人としての思いや悩みにフォーカスされているのがこの2巻。
<br />彼女の異国(オーストリア)での生活と、西欧的価値観を持ったまま祖国イランで過ごす生活での葛藤が描かれる。
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<br />十分に面白いのだが、彼女はやはり「上流階級の人」である。
<br />イラン庶民との乖離は非常に大きいものに感じられるし、イマイチ共感できにくい箇所が多いのも事実。
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<br />ただ、イランで女性がどのように体制に歯向かいながら生きているのか、というリアルな状況が垣間見られたのは興味深かった。
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<br />どうしても第1巻と比べてしまうから星4つで。
<br />単独で見れば、十分5つ星の内容。
1冊目の「イランの少女マルジ」を読んだあと、迷うことなくこの続編を買ったけど、こちらも大変面白かった。
<br />14歳で親元を離れてオーストリアに留学したマルジは、友人や恋人を得て時にはドラッグに溺れそうになったり移民としてのアイデンティティの危機に遭遇しながらも西洋社会に適応していくが、失恋がきっかけでぼろぼろになってテヘランに帰郷。ヨーロッパから帰郷すると抑圧的な社会にあらためて驚き、権力側とたびたび小さなトラブルを起こしながらもなんとか再び適応して美術大学へ。結婚、離婚を経て再び親や祖母と別れてパリに旅立つまでが描かれている。
<br />裕福で自由な思想を持つ両親に甘やかされて育ったマルジは、おしゃれもパーティも大好きな奔放な女の子。その一方で、自我が強く、向上心があって、社会の矛盾に屈しない彼女が、ナンセンスなまでに保守的、反動的なイスラム社会で成長していく様子は、日本の多くの女の子にツメの垢を煎じて飲ませたい気分。(わたし自身も含めて反省することしきり。)そう、もっと勉強しなければ。平和ボケは本当に怖いです。
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<br />パリのfnacに行ったときバンドデシネのコーナーもしっかりチェックしたが、このペルセポリスは全部で4冊の構成になっていて、堂々とディスプレイされていた。フランスでも売れているようです。
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少女の成長物語として、或いは外国人としての生活体験記として、共感できる内容があります。一方で、国王による上からの改革、革命イラン、戦争という特殊な社会を内部から描いた、貴重な情報をもたらしてくれます。しかもイラン人が書いた漫画ということで、様々な側面を持つ、得がたい作品となっていてお奨めです。
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<br /> 注意したいのは、作者はカージャル朝国王の血筋を引く、非常に特殊な環境に育った少女だという点です。祖父は首相を務め、父親は技術系会社員でありながらBBC放送を理解し、キャデラックを持ち、住み込みの家政婦がいます。作者はフランス語で教育をする学校に通い、革命後ウィーンに留学します。革命前は家族でスペイン旅行に出ています。
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<br /> 日本の読者が作者に共感しやすいのは、作者が欧米的価値観の家庭で育ったため、欧米的価値観の持ち主としてイラン社会を見ている点にあります。革命後のイランは、戦時中の日本の特高のような「革命防衛隊」に抑圧されているものとして描かれます。戦時日本や旧共産圏社会のような印象を受けるでしょう。問題は、多くの平均的なイラン人にとって、イラン社会が「同じように見えているのか」という点です。2005年の大統領選挙で保守派が圧勝したように、イラン人の多くは意外に革命後の政権を支持しています。革命前40%程度と言われた文盲率が80%に上昇し、義務教育が全土・全階級に行き届くようになったなど、民衆に支持されている面もあります。
<br /> マルジの家庭は、戦前日本の華族に比定できると言えます。国民所得が月100ドル程度の国で、自由に外国へいける人々は、民衆から妬まれる立場にあるわけです。本書を読むとき、このような側面もあることを考えつつ読むことも、大事かと思います。