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「一夢庵風流記」(隆慶一郎),引用「お主は決着をつけておきたいだけなのさ。蔵の中の品物を改めるように、形見わけをきちんとそろえておくように、徳川殿もきちんと殺しておきたい。それだけのことさ。」 利家は無言だった。ぐうの音も出ないのだ。 「ふとくたびれて、道端に坐る。ごろんと横になる。眠り込んでそのまま覚めない。俺はそんなふうに死にたい。お主のは手がこみすぎている。そういうのをじたばたするという。」 辛辣極まりない言葉だった。 見も知らぬ他人ではなく、莫逆の友に斬られることが、なんとはなしに満足だった。 もっともそんなことはどうでもよかった。 慶次郎にとって大事なのは、莫逆の友直江兼続が死ぬ、と云うことだった。兼続が死ぬなら、自分も死ぬしかないと云うことだった。 助右衛門は多くを喋らない。大方は唸るだけで話を進めてゆくという特技を持っている。およそ言葉というものを信用していない。対話とはお互いの心と心が理解しあうことだ。そして言葉は多くの場合、心を隠す役しかしない。かたくなにそう信じている。 「二度とは云わん。俺は刺客はやらん。判ったか。やらないんだ。」 利家が蒼白になった。 「俺がこれほど頼んでもか。」 「くどい。馬に鼠になってくれと頼んでみろ。え、頼んでみろ。頼まないだろう。男を虚仮にすると病人といえどもぶちのめすぞ。」
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