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「天の瞳」(灰谷健次郎)、引用「さびしい気持ちに なるくらいでなかったら、友だちの役に立たれへんねん。」 「おまえは学校で勉強しているな。学校の外でも、いろいろなことを学んでいる。人間はものを学んで、その次、なにをする?」 「仕事」 と倫太郎は答えた。 「さすが、じいちゃんの孫や。それが、きっぱりいえる人間は、この世の中にそんなにおらん。仕事というもんは、これまで、いろいろなことを学ばせてもらったお礼でもあるから、いつも人の役に立っているという心棒がなかったら、その仕事は仕事とはいわん。ただの金儲けと仕事は区別せんといかん。・・・」 ・・・ 「仕事は深ければ深いほど、いい仕事であればあるほど、人の心に満足と豊かさを与える。人を愛するのと同じことじゃ。ひとりの人間が愛する相手は限りがあるが、仕事を通して人を愛すると、その愛は無限に広がる。そうして生きてはじめて、人は、神さまからもろうた命を、生き切った、といえるのじゃ。」 倫太郎の目は、じいちゃんの上に止まって、ぴくりとも動かない。 「仕事をしない人間は、我欲ばかりつよくなる。こせこせとちっぽけなことに気がいって、小理屈が多くなる。他人のことをあれこれいう。ほんとうに大事なものが見えていないから、流行を追っかける。自分を見失うので執着がふくらみ、つよくなる。そんなふうに生きてしまうと、神さまから、もろうた命を生き切ったことにはならない。未練ばかりが残ってしまうのじゃ。」
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