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「ぼくは勉強ができない」(山田詠美)、書評ぼくは勉強ができない。は非常におもしろい小説だ。 確か昔、センター試験かなんかに取り上げられて話題になった気もする。 主人公の秀美は、いわゆる"勉強"はできないが、とても"頭のいい"高校生だ。 小説の中の彼は、自分の価値観とか好みを心から良く知っている。 それは、いわゆる「型にはまった」生き方から見るとずれているように見える。 しかし、彼は、秀美の祖父や母親の強い力を得ながら、小説の中で、それを自然に貫き通している。 例えば、勉強ができる。とか、高校生らしい男女の付き合いとか、世間的に正しいと思われていることが世の中にはいくつかある。 しかし、その価値観は、ある人にとってはどうでもいいことかもしれないのだ。 自分が絶対に正しいと思っている人ほど、恐ろしい人はいない。 そして、多分、自分の価値観を人に押し付けようとするという時に非常に問題が起こりやすい。 一番の悪は、人として、どうでもよいかもしれない価値観を人に押し付けようとすることなのだ。 秀美の頭の中で展開される論理は非常に明快で、ものすごく、説得力がある 多分、世間的に正しいと認められている生き方と、実際に正しい生き方との間にはものすごく大きなギャップがあって、世間的に正しい生き方は、実際に正しい生き方のほんの一部に過ぎないのだ。(もしくは、正しいのかどうかすら分からない。) そして、この本は、世間的には正しくないが、実際には正しい("あり"である)生き方をしている高校生が、世間的に正しいと思われている生き方の息苦しさを書いている小説なのだと思う。 強さというのには、いろいろな種類があるけれど、様々な生き方を受け入れられるというのは、その一つではないだろうか。 いろいろと思うところのある小説である。
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