「蛇にピアス」(金原ひとみ)
本作、蛇にピアスは第130回芥川賞受賞作。
「インストール」でデビューし、「蹴りたい背中」で芥川賞をとった綿矢りさ氏とともに、これまでで最年少の芥川賞受賞者となった。
(金原ひとみ氏は1983年8月8日生まれ。綿矢りさ氏は1984年2月1日生まれなので厳密には最年少芥川賞受賞は綿矢りさ氏になる。)
綿矢りさ氏の蹴りたい背中はまだ読んでいないのだが、二人は対照的な人生を歩んでいる。
綿矢さんの方は、文藝賞から、芥川賞と作家として輝かしい経歴をたどりながら、一方で早稲田大学の教育学部に進まれている。
一方、金原ひとみ氏は、1999年に文化学院高等課程を中退されている。
それぞれに対照的で独自のキャラクターのために、今回の芥川賞はこれまでになく大きな話題性があるようだ。
蛇にピアスという題名は、スプリットタンとよばれる舌を蛇のように二つに裂くファッションからきている。
本書はそのスプリットタンにあこがれる少女ルイが主人公の物語なのだ。
物語自体は、刹那的な喜びや自虐的な行為が多い。
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蛇にピアス
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ピアッシングや刺青などの身体改造を題材に、現代の若者の心に潜む不気味な影と深い悲しみを、大胆な筆致で捉えた問題作である。埋め込んだピアスのサイズを大きくしていきながら、徐々に舌を裂いていくスプリットタン、背中一面に施される刺青、SM的なセックスシーン。迫力に満ちた描写の一方で、それを他人ごとのように冷めた視線で眺めている主人公の姿が印象的だ。第130回芥川賞受賞作品。
顔面にピアスを刺し、龍の刺青を入れたパンク男、アマと知り合った19歳のルイ。アマの二股の舌に興味を抱いたルイは、シバという男の店で、躊躇(ちゅうちょ)なく自分の舌にもピアスを入れる。それを期に、何かに押されるかのように身体改造へとのめり込み、シバとも関係を持つルイ。たが、過去にアマが殴り倒したチンピラの死亡記事を見つけたことで、ルイは言いようのない不安に襲われはじめる。
本書を読み進めるのは、ある意味、苦痛を伴う行為だ。身体改造という自虐的な行動を通じて、肉体の痛み、ひいては精神の痛みを喚起させる筆力に、読み手は圧倒されるに違いない。自らの血を流すことを忌避し、それゆえに他者の痛みに対する想像力を欠落しつつある現代社会において、本書の果たす文学的役割は、特筆に価するものといえよう。弱冠20歳での芥川賞受賞、若者の過激な生態や風俗といった派手な要素に目を奪われがちではあるが、「未来にも、刺青にも、スプリットタンにも、意味なんてない」と言い切るルイの言葉から垣間見えるのは、真正面から文学と向き合おうとする真摯なまでの著者の姿である。(中島正敏)
出版社/著者からの内容紹介
ピアスの拡張にハマっていたルイは、「スプリットタン」という二つに分かれた舌を持つ男アマとの出会いをきっかけとして、舌にピアスを入れる。暗い時代を生きる若者の受難と復活の物語。第130回芥川賞受賞作。
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