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「きらきらひかる」(江国香織)、書評「きらきらひかる」は水のような小説だと思う。 だから、もしかしたら、この小説はその流れを楽しむべき小説かもしれない。 「きらきらひかる」というやさしい響きを持ったタイトルとは対照的に、本書の設定 は比較的過激だ。 妻は、アル中、夫は同性愛者、夫婦の間には性交渉はない。 本書「きらきらひかる」は、そんな、いわゆる”普通”ではない彼らの生活を描いた小説である。キャラクター設定を見る限り、一歩間違うと暗く、重い小説になってし まいそうな気がする。 それにも関わらず、全体を通して非常に透明な感じのする小説なのだ。 登場人物はその多くが人との距離のとり方を知らない。 夫である睦月は人に対して、やさしすぎたり、妻の笑子は逆に時々感情を爆発させる。他の登場人物も決して完璧ではなく、本書での言い方をすれば、すねに傷のある者が多い。 夫の恋人や友人、二人の親なども登場し、”普通”ではない彼らの生活に直接的、 間接的にさまざまな口を出してくる。 しかし、二人はそのような共同生活を心から愛し、そのままでいい。と思っている。本書は、二人の愛している生活を外からの圧力から守る戦いの物語でもあるだろ う。 実際、二人は、お互いのことをすごく気にかけてもいる。 お互いを気にかけること。その夫婦にとってもっとも重要な要素を限りなく純粋な 形で抽出するため、「きらきらひかる」は他の多くの部分をあえて切り捨てているのかもしれない。 なお、ドラマ化された監察医の物語である「きらきらひかる」は、本書とはまったく別物なので注意されたい。 また、江国香織氏の筆者名は、旧かな字体で”江國香織”が正しいのですが、筆記の都合上、新かな字体にさせていただきました。ご了承ください。
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