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「落日燃ゆ」(城山三郎)、書評この物語は、東京裁判でA級戦犯となった広田弘毅(ひろたこうき)の生涯に関する伝記小説である。 昭和23年、東京裁判の判決を受け、7人のA級戦犯が処刑された。本書の主人公、広田弘毅はその処刑者の中のただ一人の文官である。戦前、戦中を通し、軍部の暴走を何とかして止めようとした広田は、戦後、そのことに何ら言い訳をせず、そのために死んでいったのだ。筆者は静かに、だが、断固として自分の意志を貫こうとした彼の生涯を抑制した筆致で書き進めていく。 この物語の中で広田は終始背広の似合う男として描かれている。特に目立とうとせず、自分の引き受けた仕事を黙々と進めていく彼の姿の底には、一種職人のそれに似た外交官としての誇りと美意識が横たわっている。 本書で語られるのは、自分の意志に殉じ、一切の誤解を恐れなかった一人の男の生涯であり、日々覚悟を決めて生きている男の美しさを余すところ無く私達に示してくれる。 戦前、戦後と生きた広田弘毅という一人の文官の名を僕の心に残してくれた本である。
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