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「ジキル博士とハイド氏」(ロバート・ルイス スティーヴンソン )、書評ジキル博士とハイド氏、いわゆる「ジキルとハイド」という言葉は、現在、二重人格の代名詞になるくらい有名なタイトルになっている。 しかし、名前は知っていても、実際に読んだことがない人は多いのではないだろうか。僕もその一人だった。 本書は、今から100年以上前の1886年に執筆された。 作者であるスティーヴンソン/Robert Louis Stevenson(1850−1894)は、本書のほかに冒険小説の名作「宝島」で知られており、宝島のような冒険小説と本書のような心理小説が同一人物によって書かれているのが、非常に興味深い。 解離性同一性障害(DID)または多重人格(MPD)によれば、多重人格(解離性同一性障害)は、Pierre Janet (1859-1947)によって、19世紀には発表されていたそうだけれども、実際に本格的な研究が始まったのは、1973年のSchriber,F.R.による報告(邦訳:失われた私、1978)からであるそうだ。 そのためか、本書に記述される多重人格性の症状は、実際の多重人格(解離性同一性障害)とは大きく異なる部分も多い。 例えば、一般に、多重人格(解離性同一性障害)は、幼児期の性的虐待や身体的虐待などに対する防御反応として現れることが多いけれど、ジキル博士とハイド氏では、その多重人格性は、ジキル博士の作成した薬品によって引き起こされている。 また、実際の心理描写や行動描写については、後に現れる解離性同一性障害に関するノンフィクションに比べ、書き込みが足りない感がある。 しかし、きっかけはどうあれ、精神の乖離という困難なテーマを、それが深く研究される前から取り上げ、その顛末を小説の形で描ききる才能は驚くべきものであると言えるだろう。ページ数にして、150ページ強という比較的薄い書籍なので、教養として一度、手にとって見るのも良いかもしれない。 なお、多重人格を取り扱った書籍としては他に、「アルジャーノンに花束を」などで知られるダニエルキイス氏の「24人のビリーミリガン」などが挙げられる。
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