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「一夢庵風流記」(隆慶一郎)、書評作者、隆慶一郎 氏が、亡くなられたのは1989年のことである。 隆慶一郎 氏はもともと脚本家として有名だった方であり(脚本家時代は本名 池田一朗という名でご活躍されていた。)、そのため、氏の作家デビューは1984年の「吉原御免状」、61歳の時と遅い。 それから約5年間の短い小説家人生を通して、「影武者徳川家康」、「捨て童子・松平忠輝」などの多くの優れた長編小説を著された。本書もその一つである。 本書は傾奇者、前田慶次郎の生涯をつづる歴史小説であり、氏は本作品で柴田錬三郎賞を受賞された。 隆慶一郎 氏だけでなく、同じ脚本家出身である池宮彰一郎 氏にも共通することであるが、脚本家出身の作家の作品は大抵の場合、文章のテンポが非常によく、読み進めやすいのが特徴である。無駄を省き、読者に畳み掛ける文章は、読む者を見る間にその世界へと引き込ませるだけの迫力がある。 秀吉との対面場面の描写、前田利家との最後の対面、奥村助右衛門との友情など、傾奇者 前田慶次郎の生き方には、ある種の美しさを感じる人も多いだろうし、もしかしたら、そんな風に生きてみたいと多くの人が思うかもしれない。 なお、本書は週刊少年ジャンプで連載された「花の慶次-雲のかなたに-」の原作である。 また、氏はデビューして5年で病に見舞われ、連載を多く抱えながらそのまま急逝されてしまったため、「死ぬことと見つけたり」「花と火の帝 」「かぶいて候」など未完の小説も多い。是非もっとご活躍して欲しかった。
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