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「夜光虫」(馳星周)、書評馳星周 氏は1996年に「不夜城」によって衝撃的なデビューを果たした気鋭の作家の一人である。 氏はもともと、勁文社で編集者を務め、ミステリー・冒険小説の書評等を執筆なさっていたそうだ。 ペンネームである馳星周は、香港映画のスター周星馳を逆にしたものであるらしい。 馳星周 氏には本書のほかにも「不夜城」の続編である「鎮魂歌-不夜城2」や「漂流街」などの著書があるが、それら氏の著書のテーマとして共通するのは人間の心の中の暗い闇の部分であるといえるだろう。 特に「不夜城」から「漂流街」までの四作を読む限り、氏の文学上のテーマの一つは、”裏切り”なのではないだろうか。 (その後、多くの著書が出ているようなので、この認識は変わるかもしれない。) そのような小説のテーマ上、馳星周 氏の文章内には性描写、殺し、暴力、などの過激な描写が溢れている。 また、主人公は、心に闇を抱えながら、それから逃れられない自分に気づいている事が多い。 本書は、台湾で八百長に関わっていた一人の日本人野球選手が主人公であるが、彼もその一人である。 台湾で八百長に関わっていた日本人野球選手である主人公が、その時々で持ち込まれる、最初は小さな出来事をきっかけとして、生活の歯車を狂わせ、やがて、堕ちていく様子が、主人公自身の心理を交えながら克明に描かれていく。 間違えれば、ただ荒んでいるだけの文章になってしまうであろう難しいテーマの小説を、氏の心理描写力と巧みな表現によってレベルの高いものに仕上げている。
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