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「海の図」(灰谷健次郎)、書評灰谷健次郎 氏の作家としての主題は二つあると思われる。 一つは、「兎の眼」や「天の瞳」に代表されるような教育と子供達について。 もう一つは本書、「海の図」や「太陽の子」で取り上げられているような島の物語、或いは、一次産業の実際である。 前者は、筆者自身の教育者としての経験から、後者は教師を辞めた後の数年の沖縄での生活からきていると思われるが、本書、「海の図」は、前者と後者とが物語中、相互に深く絡み合いながら進んでいく。 この物語は、ある島の高校生壮吉と、5歳の女の子、陽子との何気ない出会いの描写から始まる。 現在、高校を登校拒否中の元漁師の子、主人公壮吉。陽子の姉である美しい少女、東京からの転校生秀世との出会い。島でも指折りの漁師であった父が、いち早く漁師に見切りをつけ、電力会社に勤めた謎。壮吉が次第に心惹かれていく同級生秀世の隠された秘密。 漁師、高校生、教師などといった島の人間の日常の生活や、そのうちの何人かの心に秘められたいくつかの秘密を織り交ぜながら、登校拒否や一次産業の現実などの彼自身の作家としての主題に強く迫っていく。 「兎の眼」「太陽の子」よりも内容的にかなり長い長編小説だが、平易な文章とテンポのよさの為にその長さを意識せずに読み進められるだろう。
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